使ってないけど、捨てたくないもの
ネットを見ていると、「1年使っていなければ捨てる」「いつか使うの”いつか”は来ない」と書いてあった。
ドキッとして、思わずクローゼットを見た。
着ていないコートがある。
買った時に一度着たきり、お出かけするときに着ようと思ってとってある。
「”いつか”は来ない」
ほんとうにそうだと思う。何年経っても、”いつか”お出かけする日は来なかった。
今が手離すタイミングなのかもしれない。
クローゼットから久しぶりにコートを出した。
まだ新品のようにきれいだ。
でも、もうデザインは流行遅れだ。
畳んでゴミ袋にいれようとして、手がとまった。
ゴミにするのは忍びなくて、古着屋に買い取ってもらおうかと思い直した。
コートを紙袋に入れながら、買い取り額はいくらになるんだろうと思った。
きっと何百円かにしかならない。
……でも、お出かけに着たいぐらい気に入っているのだ。
なんだか、どこまで合理的になれるかを試されている気がした。
他の人は、どんな風に断捨離をしているんだろう。
ネット検索してみると、YouTubeに断捨離の様子を映している動画があった。
ミニマリストのお兄さんが、物を捨てられなくて困っている女の子のお宅に行き、断捨離のお手伝いをするという内容だ。
お兄さんは、使う?必要?という問いに即答できず、迷う場合は捨てるんだよと言った。
やっぱり合理的に捨てることが断捨離のコツなんだと思い、「迷ったら捨てる」とメモした。
女の子が捨てる様子も見て参考にしようと思い、ペンを持ち直し、続けて視聴した。
お兄さん:それ使うの?
女の子:うーん……つ、使う……?
お兄さん:あ、迷ったね。迷ったってことは?
女の子:ふふふ、捨てます。
お兄さん:お、偉い偉い。
こんなやり取りが繰り広げられていた。
その後もお兄さんは、何か捨てるたびに「すごい」「頑張ったね」と褒め、「もうこんなに進んだよ」「あとちょっとだよ」と励まし、そのたびに女の子は「ふふふ」と嬉しそうに笑った。
……なにを見せられているのか。
ペンを置き、つい、最後まで見た。
断捨離には、合理的な判断基準より、この優しいお兄さんが必要な気がしてきた。
他にも動画や記事をいろいろ見た。
いろんな基準があって、人それぞれだった。
でも、もっと楽な基準があればいいのに。
自分のための断捨離で、苦しくなりたくない。
変わりたいなら、苦しい思いも必要ということなのだろうか。
スマホを閉じて、コートを紙袋から出した。
部屋着の上から羽織り、鏡の前に立つと、流行遅れだなと思った。
でも、やっぱり好きだなと思う。
なんとなく、このコートは好きなままでいたい。
コートをブラッシングして、クローゼットの真ん中にかけた。

