スーパーでパンを見ていた。
「コッペパン、コッペパン」と小さく聞こえる。
見ると、オバチャンが「コッペパン、コッペパン」と言いながら近づいてきている。
オバチャンは私の右隣に立ち、「コッペパン、コッペパン」と言った。
コッペパンへの意気込みに押され、一歩左にずれた。
するとオバチャンも、「コッペパン、コッペパン」と言いながら一歩左にずれた。
なんとなく急かされるように、さっきより機敏に一歩左にずれた。
オバチャンは遅れをとることなく、「コッペパン、コッペパン」と、ぴったりくっついてきた。
オバチャンの「コッペパン、コッペパン」に合わせて、なんとなくコッペパンを探しながら左に一歩、また一歩とずれた。
オバチャンも一歩、また一歩、とくっついてくる。
あ。思わず指さしてオバチャンを見た。
オバチャンは、「え」と言って、コッペパンを指さしている私を見た。
目が合って、フフフフとお互い笑いが込み上げてきた。
オバチャンは笑いながら「ありがとう」と言った。
会釈してパンコーナーを後にしながら、「コッペパン、コッペパン」はオバチャンの心の声だったのかなと思った。
コッペパンに夢中で自分のパンを選び忘れた。
またパンコーナーの方に向かうと、オバチャンがまだコッペパンの前にいるのが見えた。
なんとなく今戻るのは気まずくて、遠くからオバチャンの様子を伺った。
オバチャンは、コッペパンの前で、コッペパンをじっと見ている。
そして、立ち去った。
オバチャンは、コッペパンを籠に入れていない。
心の声がもれるほど求めていたコッペパンを、買わなかったのだ。
オバチャンが立ち去った後、パンコーナーでコッペパンを見た。
これぞコッペパンというほどノーマルなコッペパンだ。
脳内で、オバチャンの「コッペパン、コッペパン」が再生される。
これじゃなかったんだ……。
なんとなくコッペパンに哀愁を感じながら、横にあったフジパンの「ようこそ沼るデニッシュ」に手を伸ばして、ハッとした。その横に「ようこそ沼るコッペ」がある。
オバチャン、コッペパン、コッペパン!
コッペパン
日常
